てんとうむし通信

「脱Excel / Access」を考えたい。オープンソースのノーコード/ローコードプラットフォームという選択肢

こんにちは。利用者の H. T. です。私の最近の就職活動に関連して、「ノーコードプラットフォーム」に触れる機会がありました。CMなどでも時折に耳にする「ノーコードプラットフォーム」とは何でしょうか。今回の記事では、私がキャッチアップした内容をまとめます。この記事は技術レポート的な側面もあるため、やや専門的な部分もあり長いですが、よろしければ、お読みいただけると幸いです。

1.はじめに: 背景と課題

現場の業務を支えるシステムには、いつも頭を悩ませられていませんか?

日々変化する業務ニーズに応えるため、多くの現場ではExcelやAccessによる独自の管理表が作られ、個別のワンオフシステムが導入され、レガシーシステムの改修を繰り返しながら、どうにか業務を回しているという実情があるのではないでしょうか。

しかし、こうした「その場しのぎ的対応」 には、明らかな限界が訪れます。

  • ・特定の個人にノウハウが依存する 属人化 と、それに伴うメンテナンス負荷の増大。
  • ・データがあちこちに散らばることで生じる一貫性の欠如
  • ・バラバラなシステム間での連携の難しさ
  • ・部分最適はできても、業務全体の最適化からの乖離

これらの課題を解決するためには、一貫性のある業務プラットフォーム基盤が必要不可欠です。その中で近年注目を集めているのが ノーコード/ローコードプラットフォーム です。中でも、オープンソースのプラットフォームは、コストを抑えながら、現場の自律性を高め、IT部門と現場が協力して課題を解決していくことを可能にします。

本記事では、この「オープンソースのノーコード/ローコードプラットフォーム」に焦点を当て、その特徴と優位性、主要なツールの紹介、そして導入・運用の実際について整理していきます。

2. オープンソース ノーコード/ローコードプラットフォームとは

まず、このテクノロジーの核心を成す二つの概念、「ノーコード/ローコード」と「オープンソース」について、簡単に説明します。

2.1 ノーコード/ローコードプラットフォームとは

ノーコード/ローコードプラットフォームとは、プログラミングコードをほとんど、または全く書かずに、アプリケーションや業務ツールを開発できるソフトウェアのことです。従来のプログラミングとは異なり、視覚的な操作を中心に開発を進められるのが特徴です。

  • ノーコード (No-Code)

直感的なドラッグ&ドロップ操作やビジュアルなインターフェースでUI要素やロジックを組み立てます。複雑な処理も、メニューから選択したり、設定画面で条件を指定したりすることで構築します。コードを書く必要は一切なく、非エンジニアでも比較的短期間で習得できます。

  • ローコード (Low-Code)

基本的な部分はノーコードで素早く構築し、複雑な処理や独自のカスタマイズが必要な部分では、最小限のコード(スクリプトなど)を記述して機能を拡張できます。ノーコードの速さ・簡単さと、コーディングによる柔軟性・制御性を両立させたアプローチです。

いずれも、従来のように一からコードを書く開発(プロコード)に比べて、開発期間の大幅な短縮と、開発をできる人材の裾野を広げるという大きな利点があります。

2.2 オープンソースソフトウェア(OSS)とは

オープンソースソフトウェア(OSS)とは、そのソースコードが公開されており、誰でも自由に見ることができ、利用、変更、配布できるソフトウェアを指します。

この「オープンソース」であることが、ノーコード/ローコードプラットフォームに次のようなメリットをもたらします。

    • ライセンス費用が無料

商用製品のように高額なライセンス料を支払う必要がなく、コスト導入のハードルが劇的に下がります。

    • ベンダロックインの回避

ソースコードが公開されているため、特定のベンダに依存せず、自社の都合で自由に運用・移行できます。

    • 高い透明性とカスタマイズ性

内部でどのような処理が行われているか確認できるため、セキュリティ面での信頼性が高く、自社のニーズに合わせて改造することも可能です。

  • 活発なコミュニティ

世界中の開発者やユーザによって構成されるコミュニティにより、バグ修正や機能追加が継続的に行われることが多く、製品の進化と持続性が期待できます。

つまり、「オープンソースのノーコード/ローコードプラットフォーム」とは、無料で利用でき、自由にカスタマイズ可能で、かつプログラミングなしでアプリが作れるツールということができます。

3. なぜ、オープンソースのノーコード/ローコードなのか?

私が実際に触って感じたオープンソースノーコード/ローコードの強みを4つにまとめました。

3-1. 現場主導の開発とスピード(アジリティ)

「システムベンダに依頼すると、どうしてもニーズのズレが生じてしまう…」そんな課題に対して、以下のような優位性が考えられます。

    • ・ 要件合致性

業務を深く理解した現場の担当者主導で開発を行います。これにより、「現場の本音」をくみ取った、現場ニーズに即したアプリケーションが生まれます。システムベンダによる現場要件の理解不足からくる「高価で立派だけど的を射ないシステム」の構築を防ぎます。

    • 開発速度

ノーコード・ローコードによる直感的な操作で、アイデアから形になるまでが比較的速いです。従来のウォーターフォール開発のように数ヶ月待つ必要はなく、数日でプロトタイプが完成します。これにより、試行錯誤と継続的な改善のサイクルを速く回せます。

  • 人材活用

専門的なプログラミング知識がなくても開発が可能です。これにより、業務に精通した 非IT部門の現場担当者 を、そのまま 開発戦力として活用 できます。IT人材不足の解消と、エンジニアの負荷軽減に大きく貢献します。

3-2. コスト効率と将来への安心(OSSの優位性)

「導入コストが高くて手が出ない…」などの課題に対しては、以下のようなOSSの優位性があります。

    • ・ 費用対効果

オープンソースであるため、ライセンス費用は基本的に無料です。これにより、部署レベルやプロジェクトレベルで気軽に「試しに導入」することが可能になり、導入のハードルが劇的に下がります。(ただし、ライセンス条項の詳細については必ず確認しておきましょう)

  • 拡張性と保守性

活発な OSSコミュニティの力 をそのまま享受できます。バグ修正や新機能の追加が継続的に行われ、特定ベンダのサポート終了リスクを軽減します。高い拡張性、保守性、持続性が確保されます。

  • 特定ベンダ依存の回避

OSSの利用により、特定のベンダが提供する独自の技術や形式に縛られることを避けられます。これにより、システムの移行や改善の自由度が高まり、ベンダロックインのリスクを回避できます。

3-3. 使いやすさで定着するアプリへ(モダンなUI/UX)

私の経験上、従来の「いかにも業務アプリ」なレガシーなUI/UXデザインは、ユーザの受けがあまりよくありません。ユーザ導入や定着を促進するためには、モダンなUI/UXが効果的です。

    • ユーザビリティ

多くのプラットフォームが、Ant DesignやMaterial Designなど、現代のWebで標準となっているモダンなデザインシステムの哲学に沿って構築されています。そのため、ゼロからデザインを考えなくても、最初から整ったレイアウト、使いやすいコンポーネント、統一感のあるビジュアルを利用できます。UI/UXの設計にかかる工数を大幅に削減し、アプリの本質的な機能の実装に集中できます。

  •  ・ 現場への定着

日常的に使っているWebサービスやスマホアプリと遜色ない、洗練されたUI/UXを提供できます。これにより、ユーザの心理的抵抗を減らし、業務ツールへの定着率を高めることが期待できます。

3-4. 「脱Excel / Access」で目指す、堅牢で統合されたシステム基盤

前述の通り、ExcelやAccessでの業務運用はいろいろと限界や問題があるため、これらへの依存を減らす必要性は常に思うところです。

        1. データの堅牢性

PostgreSQL などの本格的なリレーショナルデータベースをバックエンドとして使用できます。これにより、Excel / Accessの容量制限やデータ破損のリスク、同時アクセス時の不安定さから解放され、技術的に堅牢なデータ管理が実現します。

        1. 業務の統合

そこらに散らばった「野良Excel / Access」を排し、シームレスに業務を統合できます。さらに、多くのプラットフォームでは外部連携機能が充実しており、例えばREST APIなどの連携機能を通じて、基幹システムやクラウドSaaSと繋がることも可能です。シャドーITを可視化・統制しつつ、IT部門による適切なガバナンスを維持できます。

      1. 品質と可用性

開発プロセスとUIコンポーネントが標準化されるため、属人性が軽減され、均質な品質のアプリを生み出せます。また、堅牢なバックエンドにより、データ量やユーザ数が増加しても安定して稼働するスケーラビリティが確保されます。

4. 主要プラットフォームの紹介

ここでは、主要なオープンソースのプラットフォームをいくつかご紹介します。

プラットフォーム 特徴 githubstar 数 評判
NocoBace データモデリングを軸に業務アプリ全体を構築。プラグインによる機能拡張も可能 18.7k 「20分で社内CRUDアプリを構築できた」との声あり。原則ノーコード、拡張はプラグインという責任分離が明確
NocoDB 既存のリレーショナルDBをスプレッドシート風UIで直感操作 58.6k 既存DBを手軽に共有・操作できる点が好評
Appsmith 豊富なUIウイジェットを配置してGUIを作成。必要に応じてJavaScriptでロジックを組み込める 38.4k 多彩なデータソース連携による汎用性が高評価されている
Budibase 直感的なビジュアルUIでデータモデルを設計し画面を構築、ワークフローの自動化ロジックも定義可能 27.2k モダンな技術スタックで素早いアプリ開発ができる点が支持されている

もちろん、これ以外にも優れたプラットフォームは数多く存在します。結局のところ、「自身の作りたいもの」「扱うデータの種類」「自身のITスキルレベル」に照らし合わせて、一番しっくりくるものを選ぶことが重要です。

5.導入と運用

可能性を感じても、「実際に導入するのは大変じゃないか?」「管理が煩雑にならないか?」という疑問は当然わきます。ここでは、実際の導入と運用のイメージをお伝えします。

5-1. 導入は容易

多くのオープンソースノーコード/ローコードプラットフォームは、現代的なソフトウェアの配布形式に対応しており、IT部門にとっては非常に導入しやすいものとなっています。

          • Dockerによるシンプルな導入

          多くのプラットフォームでは公式の Dockerイメージが提供されています。これにより、コンテナアプリとしてのデプロイが簡単です。環境構築の手間が大幅に削減され、短時間で試用環境を立ち上げることができます。

                        • 柔軟なホスティング選択
                            1. ①オンプレミス:

                          データを自社内で完全に管理したい場合やセキュリティ要件が厳格な場合で有力な選択肢。

                            1. ②クラウド(AWS, Azureなど):

                          スケーラビリティとメンテナンスの手間を軽減できます。

                            1. ③公式マネージドサービス:

                          プラットフォームによっては、ホスティングされた有料のSaaS版を提供していることもあります。運用リソースを割きたくない場合は、こうした選択肢も検討できます。

                      5-2. 運用についての考察:「自律性」と「集中管理」の良いバランスを取る

                      「現場の誰もが自由にアプリを作れる」というのは理想ですが、無秩序な開発は新たな混乱を生みかねません。「現場の自律性」と「IT部門によるガバナンス」 のバランスが重要です。

                                      • IT部門の新しい役割: 「創る」から「育てる」環境整備

                      IT部門は、従来のような「唯一の開発者」から、プラットフォームの管理者と支援者にその役割をシフトします。具体的には、プラットフォーム自体の運用・保守、テンプレートの提供、開発に関する基本的なガイドラインの策定、複雑なAPI連携などの技術サポートを行います。

                                      • ガバナンスの枠組み作り

                      完全な自由ではなく、一定のルールを設けることが重要です。例えば、

                                      1. 1.アプリ申請フロー: 新しい業務アプリを作りたい場合、簡単な申請フォームを提出。
                                      2. 2.データソースの管理: 基幹システムのDBに直接接続させるのではなく、API経由や複製したデータを使用するなどのルールを設定。
                                      3. 3/レビューと承認: 完成したアプリのセキュリティや設計について、IT部門が簡単なレビューを行う。

                      こうした軽量な枠組みを作ることで、「野良アプリ」の乱立を防ぎ、組織の資産として管理できる状態を保ちます。

                                        • センター・オブ・エクセレンス(CoE) の形成:

                      各部署から「業務とITの橋渡しができる人材」を募り、彼らが率先してアプリ開発を推進する。IT部門は彼らをサポートし、ノウハウを共有する。これにより、組織全体としての活用スキルが底上げされていきます。

                      オープンソースノーコード/ローコードツールは、IT部門の負荷を増やすためのツールではなく、IT部門と現場が協力して「これまで手が回らなかった小さな業務課題」を効率的に解決するための共通プラットフォームです。技術的な導入のハードルは低く、運用のハードルも、適切な役割分担と軽量なルール設計によって、十分に管理可能な範囲に収めることができます。

                      6.まとめ

                      業務課題の解決に重要なのは、プログラミングスキルではなく、業務を改善したいという「当事者意識」とだと思います。それは現場ベースからしか生まれません。オープンソースのノーコード/ローコードプラットフォームは、コストを抑えながら、現場ベースで業務課題解決を行うことができる、強力な手段になりえます。

                      ExcelやAccessでの運用に限界を感じているなら、それを解決する選択肢として、無料で使えるこれらのプラットフォームを実際に触ってみるのはいかかでしょうか。

                      気になるプラットフォームとチュートリアルをぜひ検索してみてください。

                      参考

                      ・NocoBase –https://www.nocobase.com/ja

                      ・NocoDB –https://www.nocodb.com/

                      ・Appsmith –https://www.appsmith.com/

                      ・Budibase –https://budibase.com/

                      ・NocoBaseを使ってみたら、業務アプリ開発が驚くほど簡単だった話 –https://qiita.com/mememori/items/61138602f6368152709a

                      ・NocoDB really an Excel replacement?https://www.reddit.com/r/selfhosted/comments/wezor8/nocodb_really_an_excel_replacement/

                      ・Power Appsファンだが、Appsmith、Budibase、Illaのレビュー –https://qiita.com/dms-matthew/items/084a9c1d28cd906e5cc7

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